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第1回 「雲計算」ってどういうこと?

中国のIT商業新聞網ニュースによると、中国大手の電信会社の中国電信有限公司(China Telecom) と台湾大手の中華電信有限公司(Chunghwa Telecom)が北京にて「"雲計算"提携覚書」にサインし、 双方それぞれの経験と強みを活かして、"雲計算"を推進するとのこと。

「雲計算」っていったい何でしょう? 
天気予報かはたまた人口降雨でしょうか? 

正解は、「クラウドコンピューティング」
中国でもクラウド化の流れは急加速ですすんでいるようです。 (三虫)

【記事要約】
5月18日のニュースによると、中国電信有限公司と中華電信有限公司は北京にて 「クラウドコンピューティング提携備忘録」の締結式を行った。
中国電信は「クラウドコンピューティング」を自身の戦略的変化の重要方向と位置づけ、 積極的に「天翼”雲計算”サービスを世に出すことにより、世界規模の総合情報サービス プロバイダーになることを図っている。
一方中華電信有限公司は、台湾で豊富な経験と運用実績のある最大規模の総合電信 プロバイダーであり、近年来、中華電信は統合情報通信技術(ICT)に取り組み、 台湾にて商用「クラウドコンピューティング」サービスを提供し、社会の効率化に貢献している。
中国電信と中華電信は共同チームを形成し、更なる交流を深め、双方の資源統合とプロジェクトの共同開発を進め、 両岸(中国・台湾)の「クラウドコンピューティング」においてWin-Win の関係をめざす。 (世淵)

【記事】 ※簡体字中国語
中国電信与中華電信合作 推進”雲計算”(IT商業新聞網 2011.05.18)

第2回 iPad2は意外に不人気?

中国の万維読者網によると、シンセンではiPad2が発売されたにも関わらず、市内の販売店では買い求める客の姿がみえないとのこと。
中国でもiPhoneやiPadは非常に人気があるのですがいったいどうしたことでしょうか?

どうやらシンセンの住人は香港まで足を伸ばして香港のアップルストアで購入しているようです。
中国大陸ではWi-Fi+3Gが発売されていないのも原因の一つだそうです。(三虫)

【記事要約】
昨年の9月17日、初代iPadがシンセンにて発売されたときは、買い求める顧客が非常に少なかった。それは、香港に比べ中国大陸での発売日があまりにも遅かったことと、値段が高かったことが原因なので特におかしいとは感じなかった。
(iPad2の発売開始日の)朝にいくつかのiPad販売店をまわってみたところ、意外にも長い行列どころか、一人も顧客もおらず、非常におどろいている。 今回の中国大陸におけるiPad2の発売は、販売開始日は香港と比べて1週間遅れ、アメリカと比べても1ヶ月しか遅れておらず、価格については初代より300元ほど安く、香港の販売価格よりも安くなっている。
にもかかわらず、シンセンでiPad2買い求める顧客がみあたらない理由を分析してみた。

・シンセンにはアップルストアがない
・iPad販売店がシンセンには十数件あり、客が分散している
・販売日は金曜日の為、サラリーマンが買いにいけなかった
・中国大陸ではWi-Fi+3Gは未発売である(香港では発売されている)

以上の理由で、シンセンのアップルファンは200元程度の交通費を払って、観光ついでに香港のアップルストアにてiPad2を購入しているものと思われる。(述淵)

【記事】 ※簡体字中国語
竟然没有一個顧客 iPad2在深●(土+川)遇冷(中国万維読者網 2011.05.08)

第3回 北京の物件が最高値を更新

最近、中国の不動産業はバブルが弾け、住宅の価格が年々下がっていく傾向に なっているとの報道をよく聞きます。

中国政府の低所得者層向けの住宅の建設や、住宅の価格を抑制する政策のおかげで バブル期と比べ、中国の住宅事情はすこしずつ良くなっているはずだと思っ ていたのですが、このニュースを見て驚きました。(述淵)

【記事要約】
北京の高級物件はまた、新記録の仰天価格になった。 北京市海淀区釣魚台七号院の物件の中には1平米に30万元(日本円で376万円)もする 価格の物件が現れた。 この「黄金屋」と言われる物件の価格は北京で最も高い住宅の記録を更新しただけでなく、 中国大陸での最高価格になった可能性があるという。

最近、中国当局は住宅価格の上昇幅を抑制している中、この仰天価格は間違い なく中央当局にとって大きな衝撃になるだろう。
釣魚台七号院には106の物件があったが、90%がすでに売れており、残りの10何件の価格もそれほど高くない。 3号棟の最上階の1000平米のこの1件だけ、今回の仰天価格になった物件である。 なぜ、このような価格の物件が生まれたか、多くの大陸の建築商が不思議がっている。
北京では「一房一価」と言う規定を実施されているはず。「一房一価」とは、不 動産開発商は住宅を販売する際に、販売価格を明記し、基準価格の変動幅、総合 差価(建物の階、向き、環境など)、販売単価、総価などの具体的な情報を公開 しなければならない。公開された価格を勝手に値上げしてはならない。また、新 築の販売価格は物価部門の審査を受けずに販売してはならないということである。
しかし、北京住宅都市建設委員会の関係者の話によると、そもそも住宅建設委員 会では価格の審査をしたことはない、「一房一価」は政策ではなく、政府の要求 に応じて作成した規定(提案)に過ぎない。

また、中国中央政務区の中心地帯にある釣魚台七号院は、北京玉淵潭公園の北側にあり、 東側の釣魚台国賓館と隣接している。更に有名な科学技術文化区の「中関村」と も隣り合わせていることなど、この仰天価格の物件を作り上げたのである。(述淵)

【記事】 ※簡体字中国語
北京房価再創天価(世界日報 2011.05.25)

第4回 中国海外旅行最新情報

京都の観光名所、嵯峨嵐山のおみやげ屋で働いている知人は、 震災前は中国人観光客で大賑わいだったのに、震災後は一向に客足が伸びず、 かなり厳しい状態だと嘆いています。
そんななか、中国から日本への団体旅行を復活させるうれしいニュースが次から次へと飛び込んできます。

中国国家観光局が、4月29日に震災にて落ち込んだ日本旅行の促進と回復を図る為、 《中国観光客日本観光安全提示調整通知》が公布されました。 また、5月21日に、温家宝首相は東北の被災地を訪れ、 「中日間の観光交流を拡大したい」との表明を受けて、 日中観光業界では中国人観光客の回復に最大な努力をしています。

5月20日午後、東日本大震災後に中国瀋陽から東京への団体ツアー客を乗せた飛行機が 20日午後、成田空港に到着しました。
5月30日に震災後最大規模となる 約80名の団体ツアー客が天津港から 「燕京(えんきょう)号」に乗り、1日朝、神戸港に入港しました。
5月31日、中国国家観光局長を団長とする訪日団約100人が東京都を訪問し、 日本国土交通省・観光庁と中国国家観光局が主催した「日中観光交流の集い」を 開催しました。同局長は「中日双方向の観光の協力や発展をしていきたい」、 「震災被害が甚大な地域以外、日本への団体旅行を回復させる」と宣言しままし た。

このように各方面の努力により近いうちに日本への観光旅行はきっと震災前より盛んになるでしょう。 来週、嵐山のお土産屋で働いている知人に、中国からの観光客が増えているかを聞いてみようと思います。(述淵)

【参考】
中華人民共和国国家観光局《中国観光客日本観光安全提示調整通知》※簡体字中国語
日本国土交通省・観光庁 「日中観光交流の集い」

第5回 中国の「おサイフケータイ」事情

日本ではガラパゴス化の代名詞となっているサイフケータイですが、香港に程近い、シンセンで6月1日より中国版おサイフケータイの「手机深●通(土+川)」のサービスが開始されました。
中国語で、”手机”は携帯電話、この場合の”通”は様々な機能が様々な場所で使えるといったニュアンスです。

現在使用しているSIMカードをRFID-SIMカードに交換するだけで、携帯番号はそのままでこのサービスを利用することができ、 現時点で使用が可能な場所は、地下鉄、ショッピングモール、スーパー、映画館、自動販売機で、チャージの方法は現金、銀行振込、携帯の3種類です。
現在、シンセンで販売されている携帯98%がこのRFID-SIMカードをサポートしており、残念ながらiPhoneは対応していないようですが、半年後にはiPhoneに 対応するといった情報もあります。

シンセン以外にも北京、大連、南京でも試験的な運用がすでに始まっているようで、中国のおサイフケータイはこれからどのようになるのか非常に興味深いです。(述淵)

【参考】
手机深●通(土+川)※簡体字中国語
市民刷手机可乗公交地鉄(深●商報(土+川)2011.06.01) ※簡体字中国語

第6回 中国の有害食品問題

日本の福島原発の事故が起って以降日本の周辺の国々では、放射能が自分の国に流れてこないかととても心配しています。またこの問題で日本の観光業界は大きな打撃を受け、経済損失は測り知れません。しかし、最近中国各地で頻繁に発生している有害食品の事件も中国や日本のマスコミで大きく取上げられさらに深刻な問題となっています。これはやがて中国経済の発展の足枷になることは間違いありません。

2008年に中国三鹿集団の粉ミルクを飲んだ乳児が腎臓結石になった事件が明るみに出ました。これをきっかけに中国社会では食品の安全性に関する法律を厳しいものにしようとする動きがおこりました。政府は2009年2月の第十一期全国人民代表大会常務委員会第七回会議において中華人民共和国食品安全法を通過させました。しかしこうした国を挙げての食品の安全性を強化しようとする動きはまだ始まったばかりです。これまで通り生産者の意識は低く一部の企業や個人は利益を優先して健康を損なうような「食品」を生産し販売しています。

周知の通り「乳製品へのメラミンの混入」、「下水道の汚水からつくられたリサイクル油」、「毒モヤシ」、「痩肉精 (塩酸クレンブテロール)即席の高級食肉をつくるための飼料であるが人体に有害」から、最近の「爆発スイカ(膨張剤を使って栽培したスイカ)」、「偽物北京ダック」まで、相次いでの有害食品が人々に衝撃をあたえています。

筆者には大阪在住の中国人の知人がいます。仕事の関係で中国と日本の間を行き来している彼はもともと肥満気味でしたが、最近急激に痩せました。原因を尋ねてみたところ彼は今年3月から5月まで中国のT市で仕事をしていたとのことでした。もともと中国のT市で育ち、20年前に来日して生活するようになってからは時々中国へ帰ったりもしていましたが、これまではさほど食品の安全性について心配することはなかったそうです。しかし今回中国へ帰って、中国のマスコミが報道している様々な有害食品を見てとても怖くなったそうです。スーパーや自由市場で売られている果物、野菜、卵、肉はどれも有害食品に思えて食欲が湧かずいつもびくびくして食事をしていました。そのおかげで痩せてしまったとのことでした。

日本では2007年に北海道の食肉加工業者の社長が鶏肉や豚肉、カモ肉を混ぜたひき肉を牛肉100%と偽り、逮捕された事件はまだ記憶に新しいです。豚肉などを巧妙な手口で牛肉に偽装することは消費者を騙す悪質な行為です。しかし人々の健康を脅かす中国の有害食品はさらにたちが悪いと思う人が多いでしょう。これは中国国内の問題としてかたづけられるものではなく世界にとっても深刻な問題です。中国の有害食品が一度日本をはじめ諸外国へ流れ込んでしまえば、世界中の食生活に暗い影を落とすことになります。


このように中国が食の安全、安心に対する信頼を失墜させ続けていると、世界における中国すべての信頼を失うことになりかねません。その損失は想像つかないほど大きいでしょう。 中国にもっとも近い隣国の日本人は中国政府が最善の対策をとって一日も早く安心、安全な食品を生産して人々の中国食品に対しての不信感を除いてほしいと思います。「美食は中国にあり」という言葉が名実とも現実のものになってほしいと切実に願っています。(述淵)


第7回 中国と日本のマンガから・・・

中国文化大革命の時代にはマンガといっても「小人書」とよばれる子供向けに作られた絵本のようなものしかありませんでした。そしてこれらのマンガの内容は当時の政治的な要求に従ってきわめて制限されており「水滸伝」や「紅楼夢」などの中国の古典を描いたマンガですら禁じられました。また種類も非常に少なかったです。やがて文化大革命が終わり80年代初頭になると「一休さん」「ドラえもん」「鉄腕アトム」などの日本のアニメーションがテレビで放送されるようになりました。こうして中国の子供たちは新鮮な外国のアニメに釘付けになりました。

これまでの中国ではマンガは子供の読み物であるという認識が定着しています。このためほとんどの中国人はマンガに対して日本とは違った認識を持っています。「マンガを読む大人は幼稚な人間である」とイメージされがちです。文章だけではなく絵で物語を直接的に表現しようとするところが幼稚にみえるかもしれません。しかし文章だけでは表現しきれないマンガ特有の表現力が実はそこには備わっています。また歴史や科学、哲学、宇宙天体などの豊富な知識と無限の想像力がなければマンガの創作はできません。

改革開放政策をきっかけに日本をはじめ多くの国のマンガが中国に流入し人々を魅了してきました。1997年『漫友』(マンガファン)という雑誌が創刊され、誌上で中国の若者の優秀なマンガ作品のほかに日本のマンガも数多く紹介されています。中国のマンガは昔と比べて大きく変化し進歩してきました。しかし中国のマンガはいまだに日本と肩を並べることができません。中国のマンガ家の絵が下手くそであるというわけではないのですが、なぜか面白さや新鮮さに欠けます。現在の中国マンガの多くはどこかで見たことのあるような何かの二番煎じであるという印象が拭えません。これは想像力の乏しさと結びついています。

かつて中国中を熱中させた日本のマンガ手塚治虫の「鉄腕アトム」は科学幻想マンガとよばれました。マンガに現れたたくさんの科学技術の幻想がやがて日本では現実のものになりました。中国人は今も古代中国の四大発明(羅針盤、 火薬、 紙、 印刷)を誇りに思っていますが、新しい科学技術についての発明はあまり聞きません。ただし知的財産権の侵害、コピー商品、有害食品などについやす想像力は驚くほど巧妙です。この中国人の想像力は紙一重の違いで人類に有益なものに変化する可能性を備えているように感じられます。この悪知恵を人類に幸せをもたらす方向に転換することができたなら中国のマンガに変化が表れはじめ中国の未来も変わっていくことになるでしょう。 (述淵)

【参考】
漫友網
京都国際マンガミュージアム

第8回 中国の高速鉄道について

2011年6月30日に中国最大の2つの都市である北京と上海間を結ぶ中国京滬高速鉄道が正式に開通し営業運転が始まった。京滬高速鉄道は全長1318キロ、最高設計速度は350km/hだ。 現時点で中国で運行している高速鉄道は20路線以上、そのうち時速300〜350km/hで運行しているのは9路線。現在建設中の高速路線は50以上だ。

人口13億以上を持つ中国は鉄道の敷設だけでなくその高速化が要求されてきた。戦後の日本は荒れ果てた廃墟から世界の先進国に発展してきたのだが、この発展は新幹線の発達と密接な関係がある。日本の成功を視野に中国政府は鉄道の重要性を認識し、現在全力で高速鉄道の建設に力を入れている。しかし、相次いでの高速鉄道の開通に伴い、鉄道部高官の汚職事件や、高速車両自体と軌道の安全性の問題などの多くの懸念が浮き彫りとなっている。手抜き工事(中国語:豆腐渣工程)の多い中国では、時速350キロで電車を走らせるのは危険過ぎるのではないかと心配する声が多かった。7月23日、人々の心配が的中し中国浙江省温州市で39人が犠牲になる大事故が起こった。この事故によって、中国の高速鉄道には安全にかかわる深刻な問題が存在することが証明された。更に世界を震撼させたのは、鉄道当局が真実を隠し隠蔽工作を行ったことだ。犠牲者の遺族は政府に対する強い不信感をあらわにしている。今後の高速鉄道の建設において安全性の問題が焦点になることは間違いない。

さてここでは中国の高速鉄度の安全性の問題はさておき、高速鉄道の低い利用率について個人的な感想を述べたいと思う。 中国のサイトの中国人記者が取材した写真付きの記事を見る限り、中国での高速鉄道の利用率は非常に低い。7月2日G212(上海虹橋〜天津西)の電車の1等席(日本の新幹線のグリーン車にあたる)の40座席ある車両に数名しか乗車しておらず、7月3日G222(上海虹橋〜青島)の電車の1等席には乗客が1人もいなかったとのことだ。多くの高速鉄道のビジネス席と1等席には乗客がなく、まるで座席を運んでいるようであると記者が皮肉を書いていた。

毎年春節の帰省ラッシュ、(1月下旬から2月中旬までの中国のお正月)に、中国の大都市の駅周辺には帰省のため乗車券を手に入れようとして何日も順番待ちする出稼ぎ労働者や一般市民で溢れかえる光景がよく見られる。出稼ぎ労働者たちが買い求める乗車券は高速鉄道の乗車券ではなく普通の列車の乗車券だ。乗車券を簡単に入手できない理由はダフ屋の存在によるもの。ダフ屋は列車の乗車券の販売員とグルになって定価の乗車券を買い占め、その場で2倍以上の値段で転売し利益を得るそうだ。空席だらけの高速鉄道に乗れば問題解決になるのだろうか?いや高速鉄道の運賃はあまりにも高額すぎて出稼ぎ労働者や一般市民には買うことができない。京滬高速鉄道北京〜上海までの時速250キロで走る列車の2等席が410元(約5,000円)で最も安く、時速300キロで走る列車のビジネス席は1750元(約21,700円)で最も高額である。 高速鉄道の建設は中国経済の発展に重要な役割を果たす国家目標の一つであるが、高速鉄道だけ発展させれば良いわけではない。それはそれぞれのライフラインの基礎建設に足並みをあわせなければならない。高速鉄道の営業収入が低ければ採算が取れず財政危機に陥る。その負担はやがて一般庶民にのしかかることになる。

中国の計画では全国の高速鉄道のネットワークは2020年に完了する予定だが、日に日に大きくなる収入格差の問題も同時に解決するべきではないだろうか。高速鉄道の建設と並行して在来線の本数を増やし、ダフ屋と駅員の癒着を取り締まる必要がある。春節期間の帰省ラッシュ時期に人々が駅で寝泊りすることなく、安心して公平に乗車券を買い求めることができるように努力するのが賢明なのではないだろうか。こういった公平で安定した社会作りがもっとも効率的な経済発展につながるのではないだろうか。 (述淵)

【参考】
萬維読者

第9回 韓流から

今回のコラムは、中国の話題から離れ、韓国映画の話をしたいと思う。
1980年代から1990年代中頃にかけて香港の映画やドラマなどが日本や中国大陸をはじめアジア全体で大きなブームを引き起こした。今でも香港の俳優ジャッキー・チェンの名を知らない人はいない。筆者の知人(日本人)のなかには、あらゆる香港映画を見たため流暢な広東語を覚えてしまった人もいるほどだ。あの時の香港映画は本当に面白かった。アジアの若者を虜にするすばらしい作品がたくさんあった。

同じころ日本の映画やドラマも香港映画やドラマと肩をならべるように、想像を絶する人気があった。特に中国ではドラマ「おしん」や山口百恵が主演した「赤の疑惑」などが愛され、それにあこがれ日本に留学してきた中国人も少なくない。しかし2000年ころからいつの間にか状況は一転した。あれほど人気だった香港映画の中国大陸などでの興行収入が振るわなくなり、同時に日本映画やドラマや俳優の話題も少なくなった。ジャッキー・チェンやチョウ・ユンファのような優秀な俳優も若くなくなり、彼らに取って代われるような次世代俳優は生まれてこなかった。中国の一部の映画やドラマのスポンサーは製作費を提供する代わりに、素人同然の自分の親族や愛人を主役にするよう要求をする。多くの映画、ドラマの製作者はお金に屈しレベルの低い作品が続出した。

こんな中、かつての香港の映画やドラマの座に「韓流」が入り込んできた。天然資源が乏しい韓国は1997年のアジア通貨危機によって経済危機に陥った。この危機を脱出するための国策として韓国は文化輸出国を目指すことになった。2000年前後から韓国ドラマが東アジアの国々で放送されるようになり、韓国の俳優や韓国文化全般に対する人気が高まってブームが形成された。日本人をはじめアジアの人々が韓流に熱狂する理由は、数多くの感動的なドラマの内容や韓国の俳優の格好よさと格別の演技力であった。

一方、韓国の俳優にとって芸能界で生き残ることは死活問題だ。競争が激しい韓国の俳優が長年にわたって人気を保つことは至難の業だ。子役も脇役も抜群の演技力が要求される。そのため、俳優になれた人もこれから俳優を目指す人も激しい生存競争の中を必死で頑張っている。有名な韓国人の整形などは当たり前のことである。一時的に大人気になり、そのあとで人気が落ちてしまった場合にはそのギャップに耐えられず自殺してしまう芸能人が他の国より多い理由もそこにある。

また、脚本家も視聴者に飽きられないよう「貧富の差」や「交通事故による記憶喪失」「出生の秘密」「不治の病」などの人気のキーワードをもとにストーリーを巧妙に描いてゆく。日本の日常では考えられないような面白い物語を創出するのだ。

15年ほど前は筆者も香港映画に魅了されレンタルビデオ屋さんで香港映画があれば必ず借りて見たものだった。ある日レンタルビデオ屋のアジア映画コーナーで偶然に韓国の映画を見つけてついでに借りてみた。映画のタイトルはおぼえていないがあまりのつまらなさで途中まで見てすぐに「韓国の映画はこれが最初で最後だ」と二度と韓国の映画やドラマを見ないと誓った。筆者は世間で日本のおばさまたちが熱狂している冬ソナーブームもばかばかしいとまだ否定的な態度だった。でも今、韓国のドラマを字幕なしでもほとんど理解できるまで韓国ドラマにどっぷり浸っている。この大きな変化が起きたきっかけは「オールイン」というドラマだった。俳優陣の演技力や、紆余曲折のあるストーリー展開とドラマ中の美しい音楽に魅了された。ドラマを見ている自分が幸せな気分になれた。これをきっかけにすっかり韓流にはまってしまい、熱心に韓国語を勉強し韓国の文化にも触れようと思って毎年韓国へ行くようになった。実際ドラマ「オールイン」を見て韓国のチェジュ(済州)島を訪れてカジノを楽しむ外国の観光客が多いとのことだ。一石二鳥というわけで韓国の文化輸出という国策は見事に成功している。 最近俳優の高岡蒼甫さんが韓流ブームに苦言を呈したことにより物議を醸している。両国の政治的な話は別にして、誰かが意図的に韓流ブームを引き起こそうとしても韓国の文化を日本人に押し付けようとしても、その内容に魅力がなければブームをつくることはできない。現実に韓国のドラマの人気が高いということはその作品が日本や中国のものより面白いということだ。人為的に韓流を抑える必要はない。日本に演技力のある優れた俳優がたくさん現れ完成度の高いドラマが日本で作られれば韓流ブームが自然に消えてしまうと思う。グローバル時代に日本でいわゆる愛国心のために他国の文化作品を抑える方法を取ったとすれば徳川幕府の鎖国と何が違うのだろうか。日本人がかつての前向きな精神を取り戻し努力して韓国ドラマに負けない良いものを生み出することが一番の解決策だと思う。 (述淵)


第10回 ある中国人の日本旅行記(上)

震災後、京都の各観光スポットでは外国人の観光客の姿が少なくなり、特に中国大陸からの観光客が目立たなくなった。観光地で聞こえてくる外国語も北京語が聞かれなくなり、広東語と韓国語が多いようだ。

震災直後に比べれば外国からの観光客が増加する傾向にあるが、依然として以前の水準には戻っていない。これを受けて外務省は2011年9月1日から中国人個人観光ビザの発給条件を更に緩和すると8月10日付けで発表した。

これは,2010年7月から行われてきた1年間の試験期間の運用状況を踏まえて決定したものだ。今般の緩和でこれまでの発給要件の「一定の職業上の地位及び経済力を有する者」から「一定の職業上の地位」を除き,「一定の経済力を有する者」とし、また滞在日数をこれまでの15日間から30日間まで延ばすことに決められた。

中国天津在住の康氏(仮名)は3.11東日本大地震の以前に3度日本に来たことがあるという。先日4度目の来日を果たした。夏休みを利用して中学生の息子とともに来日した。 1度目は2003年6月、仕事での日本出張であった。ゆっくり観光できなかったものの、大阪から東京までの新幹線の旅を満喫できたそうだ。新幹線の心地よさや車内の清潔な雰囲気などすべて中国の鉄道とは違っていて忘れられないという。

2度目は5年前に団体旅行ツアーに参加した。大阪、京都、名古屋、東京を4泊5日間で観光するハードなスケジュールであった。自分の行きたい場所には行けなかった。一応有名な観光地に足を運んだことには間違いなかったが、記念写真も満足に撮れないほどあわただしかったそうだ。

3度目は2泊3日間の沖縄観光ツアーに参加し那覇などを観光した。 今回はツアーではない個人旅行であった。自由に観光ルートやスケジュールを設定できて興味のあるお寺や神社の巡り旅行を満喫できた。


第10回 ある中国人の日本旅行記(下)

康氏の選んだ4度目の日本の訪問先は、中国のウェブサイトで知った四国八十八箇所(四国遍路)、空海(弘法大師)ゆかりの札所巡りであった。限られた時間で八十八箇所すべて回れないが、徳島県にある熊谷寺、法輪寺、十楽寺、金泉寺などを案内した。お寺の入り口にある手水場での手や口を清めてから本堂で参拝するお遍路さんを観察して丁寧に真似した。古くても保存状態の良い小さなお寺がたくさんある日本のような状況は中国では考えられない。

寺巡りの帰りに大阪や京都でお土産を買った。ヨドバシカメラにてiPad 2を2台、スーパーにてセラミックの包丁3本、日本酒4本、徳島産の新米20キロ、インスタントの味噌汁、チョコレート、お土産用菓子など。これらのものを購入した理由を尋ねてみたところ、次のように答えてくれた。

iPad 2は中国でも簡単に購入することができるが、中国では本物のiPad 2とそっくりのコピー商品が堂々と出回っているとのこと。中国で購入すると知らないうちにコピー商品を購入してしまう可能性が高いとのことだ。京セラのセラミック製品は中国の富裕層のあいだで非常に人気がある。これも中国で売っているが純日本製の商品を買い求めるためわざわざ日本で購入したとのことだ。日本酒を買った理由は、前回日本酒を1本買って帰ってみんなで飲んでみたところとても美味しくて評判が良かったから。ただ中国の税関では1人2本までという持込み制限があるため多くは購入できない。米は荷物になるのだが、日本の米は世界で一番美味しいといわれ値段が高くても持って帰る。日本で長寿の人が多いのは味噌汁をよく飲むことと関係している、と聞いたことがあるとのことだ。インスタントのものでもよいとのことであった。中国で売っている国内産のチョコレートは品質が良くない割には値段が高い。

康氏が購入したお土産を見ると、これまでは中国人観光客が日本で買うものとして家電製品や化粧品などが多かったが、食料品が多くなってきていることがわかる。 康氏の日本観光のもう一つの目的は日本料理を楽しむことである。

康氏は京都の老舗日本料理店にて生まれて初めて懐石料理を味わった。彩るきれいなお皿に盛り付けた煮物や刺身などの料理を見て、「まるで芸術品みたい、食べるのがもったいない」と感嘆した。康氏は、日本料理は味や食材だけでなく、陶器・磁器・漆器等の器類の質感や絵柄なども吟味でき、季節や風情までも楽しむことができて、本当にすばらしいと大満足の様子だった。

最近は先進的な日本の大都会を見物するばかりではなく日本の田舎や自然を楽しもうとする中国からの観光客が増えている。中国人の日本観光に新しい風が吹き始めているようである。

【参考】
外務省(中国人個人観光ビザ発給要件緩和)

第11回 中国の映画館事情

2010年中国のGDPが日本を上回り、世界第2の経済大国となったことはニュースなどを通して誰もが知っているでしょう。しかし中国の人々の娯楽については意外と知られていません。ここでは中国の映画館の事情についてご紹介します。

中国社会科学院が8月16日に発表した「文化白書」によると、2010年の映画興行収入は100億元(約1200億円)を超えたとのことです。ちなみに2010年の日本映画興行収入は約2207億円でした(日本映画製作者連盟より)。

広大な中国全土の映画館の数について統計データはありません。しかし中国万達グループのチェーン加盟映画館だけでも全国42都市に70軒以上の映画館と600以上のスクリーンがあるとのことです。また、韓国のCJグループのCGV(Cultural、Great、Vital)映画館が上海、北京などで数多く建設されています。

最近は伝統的な独立式の映画館は少なくなりつつあります。映画館は単に映画を鑑賞するだけの場所ではなくなりショッピングや飲食、娯楽の場を一体化した最先端の施設となり、新たな生活スタイルを体験できる空間となっています。このような新しいタイプの映画館を楽しむ主な観客は80、90年代に生まれた20代から30代の若者です。

中国の映画チケットは3つのランクに分けられています。

一般:約30元 3D:約80元(新作映画) IMAX:約120元(新作外国映画) 通常の映画館は、館内への外部からの飲食物の持込みは禁じられています。映画館内の売店で売られている商品の持込みはOKです。映画を鑑賞しながらポップコーンを食べるのも日本映画館の風景とかわりがありません。

中国国内映画(香港も含む)は一般映画として放映することが多いことに対し、外国映画は3DやIMAXの放映が多いようです。120元の映画チケットは日本のチケット並みの価格で、一般の人々の収入から見ても決して安いとは言えません。DVDが普及し、またその海賊版が多数出回っている中国において人々に映画館まで足を運んでもらうためには大きな苦労が伴うようです。 中国では国内の映画産業を保護するため、外国映画の輸入を制限してきました。2010年は3Dや国際合作映画が増えたため、24本の外国映画が公開されました。これらの外国の映画のほとんどはアメリカの映画です。

韓国CJグループ傘下のCGV映画館に限っては外国映画である韓国映画を自由に放映することができます。ここでは中国国内であっても外国映画の輸入規制はありません。

2010年の映画興行ランキングによれば、中国映画の第1位『唐山大地震』馮小剛(フォン・シャオガン)監督作品が6億6000万元で、外国映画の第1位『アバター』が13億7800万元でした。

やはり、中国映画は、外国映画に比べれば依然として劣勢であることがわかりますが、2010年12月に中国で公開した馮小剛(フォン・シャオガン)監督の映画『非誠勿擾II(狙った恋の落とし方II)』は5日間で2億元以上の興行記録を作りました。この映画では北海道ロケが行われました。主人公が映画の中で旅行した釧路や阿寒湖畔などのロケ地は中国人の空前の北海道旅行ブームを生み出しました。しかし、このように成功を収める中国国産映画はそれほどたくさんあるとは言えません。政治色の濃い国策映画「建国大業」や「建党偉業」といった作品の興行成績はランキングを見る限り悪いものではありませんが、思想教育映画として学校や会社がチケットをまとめて購入して人々に配布し半ば強制的に見せたり、外国の映画の上映を遅らせたりしているという一面もあるのです。文化大革命が終わって30年以上も経った今でもこのような文化的な覇権が横行しているのが現状です。 (述淵)

【参考】
百度文庫:2010年中国映画ランキング
日本映画製作者連盟

第12回 中国の教育事情(上)

近年、中国が大きな発展を遂げている背景には、教育を重視して政策を進めてきたことがあると考えられる。

最近、河北省衡水市第2高校の朝の集団ジョギングに関する動画が中国のインターネット上で話題になっている。学生たちがジョギングを開始する直前まで懸命に本を読み、何かを暗記する姿が印象的だった。勉強する姿はまるで戦場の兵士のようにも見えた。よく調べてみると、この学校は河北省級重点学校(モデル進学校)であり生徒数は8000人、教職員数は500人の全寮制高校である。この高校は、2011年の一流大学かそれに次ぐレベルの大学への進学率は河北省では一番であるということが分かった。このような進学校は中国全土に数多く存在し、現在と未来の中国を支えている。

中国の文化大革命(1966年〜1976年)の10年間は、国の制度として高校から大学への進学を止められた。通常、大学への入学基準はテストを行い、合格者を選ぶことになるのだが、当時は労農兵(労働者、農民、兵士)から思想が良いと思われる人物を選んで大学へ入学させていたのだ。大学は科学知識を教えるというより思想教育を行う場所であった。一方、小中学校では社会の混乱のため本来伝授すべき文化や知識の教育を行うこともできなかった。この愚民政策のおかげで中国の経済が先進国と比べれば何十年も遅れてしまったと言われる。

1978年から、中断されていた大学入試が正式に復活し、本当に優秀な人材が各大学に集まるようになった。当時の大学進学率は4%といわれるほど入試は難しい関門であった。大学(すべて公立)へ入学できれば、生活費以外の学費や医療費、寮費は100%国が負担した。卒業すれば就職も国が斡旋する制度だった。しかし、30年以上経た2010年の大学進学率は約25%となり、大学の数も増え私立大学も目立つようになった。一部の家庭で大学の入学通知書を受けても学費や生活費の工面ができず大学の進学を断念せざるを得ないこともある。また、都市部では一般の大学を卒業しても就職先が見つからない若者でごった返している。そのため一流大学を目指して頑張る受験生が増えている。(述淵)


第12回 中国の教育事情(下)

中国は唐の時代を除いては世界的な地位は長い間低いものであった。中国人が先進国の人々に軽蔑されていた理由のひとつに教育が挙げられるということがわかってきた。近年中国政府は「百年の大計は、教育にある」というスローガンを掲げた。1986年に中国で『義務教育法』を施行し小学校6年、中学校3年間の学費免除の9年制義務教育を実行した。

中国の都市部では公立幼稚園の数が幼児数の割合に比べて少ない。利益を優先する私立幼稚園はあるのだが費用が高額であるため、一般の共働き家庭では収入の半分以上(約3000元)を子供の幼稚園代に費やさなければならない。また義務教育の9年間は学費が徴収されないはずであるが、さまざまな名目で生徒から高額な雑費を請求する学校も少なくない。ほとんどの学校には日本のような学校預り金制度がないため、すべての雑費が生徒に還元されず、一部教職員のボーナスなどに充てられるケースもあるというのだ。中国の富裕層にとって月何千元の教育費はたいした出費ではない。しかし一人っ子社会の中国では裕福ではない家庭でも親が「望子成龍」を願っていかなる代価でも支払い、一時間の授業にでも何百元の謝礼を払うというほど教育に心血を注ぐ。無理してわが子の将来のために投資するのだ。周知のとおり、世界的に有名なピアニスト郎朗(ランラン)の家庭では郎朗が9歳の時に父親が仕事を辞めて家の全財産を処分した。息子の才能を開花させるために故郷の瀋陽から北京のピアノの有名な先生の元へ弟子入りさせるためであった。今となっては美談となっているが、中国社会での英才教育の一つの縮図でもある。

また、中国には日本の学習塾のような「補習班」が存在する。一般文化知識の他にピアノ、美術、スポーツなどさまざまな形の「補習班」がある。子供は学校で一日の勉強を終え放課後も休む暇はなく親の指定した「補習班」に通わなければならない。親はわが子のために時々心を鬼にする必要がある。最近まで「ゆとり教育」を実施されてきた日本とは正反対の状況となっている。 このようにして中国の教育の現状は一定の成果を収めた。OECDでは世界の約60カ国と地域で15歳児童を対象に学力(学習到達度)に関するテストを行っている。2009年の調査によると参加した中国の上海地域では解読力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3科目のすべてにおいてトップを独占した(<2010年OECD国際学力テスト>各国順位一覧より)。(述淵)

【参考】
衡水2中動画
OECD国際学力調査結果

第13回 なぜ中国で大量の下水油が生まれるのか?

中国の「下水油」通称「地溝油」とは次の3種類分けられる。
(1) 名前のとおり下水道に浮遊している油や、ホテル、飲食店で捨てられた残飯などを加工して作られた食用油のこと。
(2) 質が悪くなった豚肉、豚の内臓、豚の皮から抽出した食用油のこと。
(3) 揚げ物で使用した後に廃棄処分された廃油に少し新しい油を注入して作られた食用油のこと。

これら3種類の「地溝油」はいずれも加工過程で有害な添加物が加えられ、摂取すると白血球と消化管粘膜が破壊され食中毒を引き起こし、場合によってはガンに至るなどして人体に悪い影響をもたらす。本来なら絶対食用に使用してはならないことは言うまでもないだろう。しかしこの「地溝油」はなぜ大量に流通し食用油として中国人の食卓に上っているのだろうか?

「味だけで区別はできず、一般的な基準で検査してもわからない、低コストで作ることができ暴利が得られるのである。」と専門家はいう。つまり悪徳業者の仕業というわけだ。しかし、悪徳業者にこの絶好のビジネスチャンスを与えるのはそこにいる普通の中国人と行政の不健全な残飯回収システムである。飲食店で廃棄される大量の食べ残しこそ「地溝油」の原料となっている。 筆者は多くの中国人が日頃から飲食店で絶対に食べきれないほどの料理を注文し大量に食べ残す場面を何度も目の当たりにしている。食べきれない料理をなぜ大量注文するのだろうかと、疑問を抱くだろう。

近頃の中国ではどんなレストランでも食事をする人々であふれている。有名なレストランから一般の飲食店にいたるまで連日大盛況である。 経済の発展によってお金に余裕ができて外食する人が多くなっている。しかしほとんどの客はレジで精算する際に「領収書をください。」という。つまり客は何らかの理由でこの飲食代を接待費として勤め先などに請求するのだ。会社や政府機関に勤めている人が顧客などを接待して飲食する場合、たくさん注文しないと顧客にたいしてメンツが立たないのでわざと過剰に注文するのだ。要するに気前の良いところを見せようとする一種の見栄張りである。また食べ残しをするのが中国人の食卓の礼儀とも言われている。しかし世界の食料不足の事情を見るかぎり、もはやこの礼儀作法はモラル違反であるともいえる。また一方で、自腹で外食する人には食べ残しの現象が極めて少ない。

昔の中国人は日本人と同じように一粒も残さずご飯を全部食べていたものだった。唐の時代の詩人李紳の「憫農」には「鋤禾日当午 汗滴禾下土 誰知盤中● 粒粒皆辛苦」(口+食)(口語訳 :早朝から鋤をとって、稲を耕しているうちに、正午になった。 汗が滴り落ちて稲の根元の土にしみ込む。 お椀の中のご飯の一粒一粒が、皆、農民の汗と辛苦の結晶だということを、いったい誰が知っているだろうか。)というすばらしい漢詩がある。一般の中国人であるなら小学校の低学年で学んできたはずであった。しかし急激に経済大国となった中国は道徳も急激に低下してしまった。国民は意識して素養も向上させてゆかなければならない。 食卓の礼儀と言われる中国の食べ残し文化は時代に応じて見直し、学校では初等教育で「食物を大事にする」ことをしっかり教え、家庭でも食事をするたびに、親がご飯一粒一粒の大切さを子供に教える必要がある。

一方、飲食店でもおおっぴらに食べ残す客に対して何らかの罰則を与える措置を取るべきだ。また日本のように行政(都道府県)が発行した産業廃棄物収集運搬業許可書を持っている業者のみ食品リサイクル法に基づき飲食店と契約した上で、飲食店からの廃棄物を回収できるシステムを整えることによって、悪徳業者に「地溝油」を製造するチャンスを与えないように図るべきである。(述淵)

第14回 中国の大学生と日本の大学生との違い(上)

近年日本から米国への留学生が減少している。NEWSポストセブン(ニュースサイト)の記事によると名門ハーバード大学の日本人留学生の割合が韓国人の8分の1、中国人の7分の1となったことが明らかになった。

さらに記事は留学生の減少で、日本の大学の存在感も低下していることを指摘している。2008年の米国の大学院の博士号取得者の出身大学別ランキングでは、1位の清華大(472人)をはじめ中国の大学がベスト10の内3校を占めているのに対し日本の大学は425位に東京大(23人)が入るだけであった。

80年代から90年代にかけて社会主義的計画経済を実行していた中国では国が大卒者に無条件で就職先を斡旋し国営企業や政府機関に配属していた。当時は大学へ進学して無事に卒業できれば就職の心配はまったくなかった。永久に「鉄飯碗」を持つことができたのである。「鉄飯碗」のことばの意味は食いはぐれのない職業のこと、つまり日本で言うと、「親方日の丸」といわれるような職場に就職することだ。これは「国家統一分配」とよばれる制度であるが卒業生にとって就職に苦労しなくて済むというメリットがある反面、自分で職種を選択する権利はなく不適材不適所になりかねない制度でもあった。しかし、市場経済体制になるにつれてこの制度の適用範囲が徐々に縮まり、1993年には完全に廃止された。また現在は中国の国策によって教育信奉、学歴信仰が人々に浸透し大学の数が急激に増えた。全中国の大学進学率は約25%(政府推計値)である。農村と都市の差は激しく上海、北京などでは90%にも達している。全国の大卒者は90年代より約6倍に増えたという。最近世界第2位の経済大国になった中国であるが就職難の状況は年々深刻になっている。このような状況の中では現在の中国の大学生は最近の言葉で「出類抜萃」(他人よりずば抜けていること)とよばれる人材になるため一流大学をめざし必死で勉強する、また親は借金をしてでも子供を先進国へ留学させようとするのである。

これに対して最近の日本の大学生は大学での勉強に対するモチベーションが低くなっている傾向があるといわれている。少し前のゆとり教育とも関連があると考えられているが国際調査で日本の学生の学力順位が大きく後退した結果にも表れている。

かつて中国の大学に留学し後に4年間中国の大学で日本語を教えていた知人の教授によると中国の大学では講義中に板書を写し取る学生はあまりいないそうである。学生は先生と目を合わせながら講義に集中して内容を理解しようと努める。ノートは覚え書きとして残すメモ程度である。またしばしば先生を困らせるぐらいの鋭い質問をしたりもする。教授は講義をする際には常に学生の熱い目線を感じるそうである。一方日本の大学生は授業中ほとんど教授と目を合わせることはしない。質問をすることもなくひたすら板書を写し取るのである。テスト前にそのノートを暗記しておけば合格点が取れるという考えなのかもしれない。自分の頭でものを考える必要が少なくなり思考能力が低下の原因になっていると先生は心配していた。これは日中の大学生間の授業風景の違いである。もちろん、日本にも、すごく真面目に勉強する東大、京大などのエリート大学生も存在するが。

第14回 中国の大学生と日本の大学生との違い(下)

2010年、中国の「課堂内外教育センター」が中国全土の高校生に対して行った意識調査によると大学で勉強する目的について最も多かった答えは「更に深い知識を求め、卒業後良い職につき、金持ちになりたい」というものであった。

最近市場経済に移行した中国はいわゆる拝金主義が蔓延しさらに権力イコール「金」の傾向が強まっている。コネと人脈がなければ市場経済社会ではなにもできないのが現実だ。これを受けて学生は知識を得ること以上に大学で人間関係を築いておくことを優先に考える者が増えている。実際中国の学生が日本の学生以上に友達を多く作ろうとしたり留学を希望することもここに理由がある。

80%以上の日本の大学生がアルバイトをしているのに対して、中国の大学生はほとんどアルバイトをしない。日本ではアルバイト先が多く時給も安くないため安易に稼ぐことができる。逆に中国では家庭教師や一部の飲食店など学生がアルバイトできるところは限られている上に時給も非常に安い。飲食店の時給は平均8元(約100円)で一日4時間アルバイトしても一日分の食事代を賄うことができないほどである。そのため大学卒業まで学費も生活費も小遣いもすべて親のすねをかじらなければならない状態だ。 中国では大学を卒業し就職するまでのすべての費用を親が用意するのであるが、大学生を持つ親は一様に貧しい時代の出身であり、お金のために大変な苦労を強いられている。またそのことは大学生である子供が一番良く理解している。だからこそ就職して立派な大人になりたくさんお金を稼いで親に恩返したいと考える若者が多い。

日本の場合は学費を親に出してもらうのは当り前のことで、実際には親もそのことを子供に恩にきせることも少なく見返りもあまりあてにはしていない。これは親も比較的豊かな生涯を送ってきたためかもしれないし、また国民性なのかもしれない。

これまで親孝行が美徳であった中国の学生の意識も社会の変化につれて少しずつ変わりつつある。儒教の思想が根強い中国では子供のときから親孝行の精神を厳しく教え込まれてきた。ところが近年に至り「一人っ子政策」の影響で子供たちは親に甘やかされて育った結果、自己中心でわがままなになりやすい環境に置かれている。最近中国で過去最年少の10歳で大学に合格し、2011年9月北京航空航天大学の博士課程に進学した神童とよばれる少年がいる。その彼が修士課程の卒業間際に親を脅迫したとして話題になっている。彼は両親が全財産を処分して北京で自分のための家を購入しなければ学業を放棄し博士課程に進学しないと言ったのである。両親は息子の才能に早くから気付き人生の全てを息子の教育に費やしてきた。少年は最近テレビの番組で「両親は自分がかなえられなかった夢を僕をとおして実現しようとしているだけなのです。」と胸中を打ち明けた。このような少年の両親に対する行き過ぎたわがままぶりが中国で賛否両論を引き起こした。 10月11日に中国の北京大学が「“2012年高校校長による実名推薦入学制”細則」を発表した。この中で推薦入学の条件として「親不孝者を推薦してはならない。」また「他人に無関心である者、公益活動に参加したことがない者を推薦してはならない。」というものがある。この規則をめぐっては物議を醸している。北京大学があえてこのような発表をしなければならなかったわけは、最近中国社会において若者中心にモラルが低下し道徳の崩壊が社会問題になっているという背景があるからである。(述淵)

【参考】
日本人の海外留学者数(PDFファイル)
ニュースポストセブン

第15回 中国の人気テレビ番組


中国は国土が広く、人口も13億以上で、このためテレビ局も数多くあります。国営テレビ局の中国中央電視台(CCTV)だけでも18チャンネルあり、同じく国営の教育専門放送の中国中央教育電視台は5チャンネルあります。それに加えてそれぞれの省、自治区、中央直轄市がテレビ局を運営しています。(例:北京電視台、遼寧省電視台など)。中国の一般家庭で受視できるチャンネルは中央テレビ局の全チャンネルと所在する省、自治区、直轄市のテレビ局のチャンネルと衛星チャンネルがあり合わせると50チャンネルほど視聴することができます。

地域によって放送内容が違うため、日本のように一番人気のある番組を決めるということはむずかしいようです。全国的に視聴率が5%ぐらいあれば文句なしの人気番組といえるでしょう。

人気番組を年齢層で区別すると、若年層のなかでも特に80後(1980年以後生まれ)に人気のある番組はテレビを通じてお見合いをする番組です。最初は山東テレビ局の衛星チャンネルで放送された「愛情来敲門(愛情がノックしてくる)」が発端となりました。あまりの人気ぶりにより他の放送局でも同じような男女の出会いの番組がつくられるようになりました。今年の7月に逃亡中の殺人犯が、あるお見合い番組に堂々と出演し御用となった話題がありました。最近テレビをつけると必ずお見合いの番組が見られます。その中で特に浙江省の衛星チャンネルの「我?約会?(私たちデートしましょう)」と江蘇省衛星チャンネルの「非誠勿擾(冷やかしお断り)」という番組は圧倒的な視聴率を誇っています。

先日放送された「非誠勿擾(冷やかしお断り)」をご紹介します。 24人の独身女性の前に、彼女のいない独身の男性が一人登場します。まずは第一印象です。女性たちの中でその男性に興味がない人は、手元のランプを消して意思表示します。続いて男性のプロフィールやアピール用に作られたVTRが流されます。これを見ながら、さらにランプを消す女性や消したランプをつけなおす女性も現れます。もしすべての女性のランプが消えてしまった場合、カップル成立はなしとなり、男性は退場しなければなりません。1時間20分の放送中に5人の男性が登場します。最後に男性側にも選ぶチャンスがあります。

この番組では佐藤愛さんという日本人女性が登場することで話題になっています。また何度出場してもカップルになれない常連の女性も多くいます。 このお見合い番組に登場した男女はともに年齢が若く20代前半です。登場する男性はイケメンや実業家が多く経済力もあり、女性もほとんどが大卒以上でスタイルも良い美人ばかりです。彼女たちと彼等は特にこの番組の力を借りなくても自力で十分に恋人を見つけることができるように思えます。実際このような番組に出場する最大の目的は恋人を見つけることより自分の顔を広げ、有名人になりたいということらしいのです。そのためカップル成立率はとても低いようです。

お見合い番組のほかに歌や音楽、ダンスに才能を持っている素人のための「選秀(オーディション)」番組が人気あります。例えば、2004年10月から中央テレビの3チャンネルで放送されている「星光大道(スターへの道)」という番組は放送開始してからをずっと高い視聴率保っている長寿番組の一つです。このエンターテインメント的なオーディション番組は毎週土曜日の19:30から20:30までの1時間のゴールデンタイムに放送され子供からお年寄りまで幅広く人気を博しています。また、2010年7月から「中国東方衛視」(上海テレビ局に属している官営チャンネル)が「中国達人秀China's Got Talent」というオーディション番組を始めました。この番組はイギリスのフリーマントル・メディア社に著作権を認められたオーディション番組です。フリーマントル・メディア社が制作した「Britain's Got Talent」という名のオーディション番組はスーザン・ボイルを輩出したことなどから世界的にも有名です。「中国達人秀」によって多くの一般人だった人が才能を開花させ自分の夢が現実のものにすることができました。優勝者はフリーマントル・メディア社と著作権に関する契約を交わし国際的にもデビューすることも可能なのです。第一弾の優勝者はなんと幼少の頃に事故で両腕を失って足でピアノを弾く劉偉という青年でした。障害を持つ人たちも健常者と同じステージーで勝負することができるというのです。

2011年7月10日「中国達人秀」第2弾の決勝戦の上海市の視聴率は約33%、全国の視聴率は約6%に達し全国一位となっていました。 (述淵)

【参考】
百度:中国達人秀
「非誠勿擾(冷やかしお断り)」動画

第16回 中国の結婚事情

今年32歳になる中国人男性の張氏(仮名)は未だに結婚相手が見つからないということで、本人も親もあせっています。張氏は中国大連市の理科系大学を卒業後、外資系の会社を三度ほど転職し、今はアメリカ独資の会社で機械のエンジニアとして勤めています。現在の月収は4000人民元(5万円ほど、中国のサラリーマンの平均月収にあたる)です。とりわけのイケメンというわけではありませんが178センチのスリムな体系で思いやりのある優しい性格をしています。こう見ると張氏自身の条件が特に悪いとはいえないようです。なぜ結婚相手がいないのか両親と周囲の人々は不思議でなりません。

張氏には大学時代から付き合っていた彼女がいましたが3年前に一方的に別れを告げられました。それから今まで何人かの女性とお見合いをしたのですが、相次いで断られました。最初の交際相手も含めて結婚を断られた大きな理由は、張氏にはマイホームや車がないということでした。 張氏の両親は一般労働者で、現在暮らす50平米のアパートは30年前に父親の工場から配給されたものでした。張氏が大学に通っていた4年間、両親はコツコツと節約し少ない給料から高額な学費と生活費を仕送りしていました。卒業後張氏は就職しましたが、経済発展と共に物価も上昇し親に恩返しするどころか、逆に自分の家を買うために更に親に負担をかけることになっているような状態です。経済が急速に発展した中国では「拝金主義」が若者の間に浸透しつつあり、婚姻に対する価値観が変わってしまったようです。現在中国には張氏のように結婚ができない男性が山ほどいるといわれています。

中国の女性も日本と同様に結婚相手に対しての「高身長」「高収入」「高学歴」のいわゆる「三高」条件を求めてきましたが、最近では「有房、有車、月薪過万」(家があり、車があり、1万元以上の月給がある)やほかにも「公務員であること」などの条件が重なってきました。

北京や上海などの都会の一等地に高級マンションを所有している独身男性であれば、たとえ70歳の老人であっても20代の女性の結婚志願者が後を絶たないそうです。更に一部の女性の間で「自分で苦労して働くより、金持ちの愛人になる方が良い暮らしができる」との考えから愛人志向が強まっています。愛人紹介ビジネスすら存在し非常に繁盛しているというのです。中国青年報社会調査センターが2011年4月28日に2333人を対象にインターネット調査を実施した結果によると、78.8%の回答者から「愛人や誰かの浮気相手になることに抵抗感はない」との回答が得られました。

純愛を信じるより経済力ばかりを求める女性が増える中で、中国の人口に占める男女性別比の不均衡の問題も日々厳しくなっています。「中国人口と就業統計年鑑2010」のサンプリング調査によると全国の未婚男女人口比は27歳で男199対女100、さらには33歳では293対100という非常に厳しい現状であるといいます。このデータが示すとおり「男余り」状態がますます深刻化する中で、経済力のない独身男性はさらに窮地に追い込まれています。特に農村部では若い女性が経済力のある結婚相手を求め次々と都市部へ行ってしまい、残された貧しい独身の男性たちは一生結婚できず寂しい独身生活を余儀なくされています。この状況を打開するために一部の男性は国際結婚斡旋所を通じ、より経済力の弱い国、例えばベトナムなどから花嫁を迎えています。これは少し前の日本と似た状況ですね。

一方、「姐弟恋」いわゆる「年上の女性と年下の男性の恋愛」が中国社会でも少しずつ認められるようになりました。中国の伝統的な恋愛結婚観は、男性が女性より年上で経済力においても女性より上でなければ成り立たないというものでした。高学歴で有能に仕事もこなし経済力を持った30過ぎの独身女性が増えているということが背景にあります。「姐弟恋」は、中国男女性別比の不均衡の問題をすこし緩和させることができるかも知れません。

さらに最近はインターネットが普及した中国では、出会い系サイトを通じての恋人探しも徐々に認められるようになってきました。しかし依然としてカップルの半数以上は親類や友人の紹介、または結婚紹介所によるお見合い結婚であるということです。 (述淵)

【参考】
中国青年報
中国頻道

第17回 中国の家政婦事情

2011年12月、日本ではドラマ「家政婦のミタ」が最終回の視聴率が40%突破し、社会現象を巻き起こしたといわれた。今回は中国の家政婦事情を紹介しよう。

中国の一般家庭では夫婦共働きのうえに保育園や幼稚園が不足しているため、子供の面倒や洗濯、食事、掃除などを含む家事全般をこなす家政婦が必要となる。20年ほど前までは経済的な理由から中国の一般家庭では家政婦を雇える家は非常にめずらしかった。しかし1980年代後半くらいから都市部の富裕層のあいだで家政婦を雇う家庭が徐々に増えてきた。

家政婦は中国語で「保姆」という。80年代後半頃の家政婦は特に四川省の田舎から出稼ぎに来た若い女性が多かった。四川省の一部の村では若い女性が総出で北京や上海などへ家政婦として出稼ぎに来ていたということも珍しくなかった。当時中国の家政婦は仲介業者を介して必要とされる家庭へ派遣されていたが、日本のようにホームヘルパーの教育を受けたわけでもなく特別な資格を持っているわけでもなかった。

2000年8月に中国労働社会保障部は家政婦(保姆)を「家政服務員」という名称に定め、国家資格が必要な職業となった。これを受けて、中国全土では相次いでさまざまな家政婦養成学校が設立された。2006年四川省で中国初の家政婦大学が設立された。「四川師範大学家政学院」というのが正式名称で、学生は女性だけではなく男性も多いという。この大学にはビジネス家政、対外高級家政、家政管理の3つの専攻があり、卒業生は広州や上海、北京などのセレブ家庭や在中外国人の家庭で働くという。卒業生の給料は非常によく、最低月給は3,000元、最高月給は10,000元以上である。

通常の家政婦は雇い主の家に住み込みで働き、掃除、洗濯、食事の用意、子供や老人の世話などするが、最近はさまざまな需要に応じて時給制の家政婦が増えている。80年代以降に生まれた現在20代後半から30年にかけての若い世代のほとんどは一人っ子である。甘やかされて育てられたため結婚しても料理ができず洗濯や掃除もろくにできない人が多い。

中国瀋陽在住の王さんは貿易会社に勤務している28歳のOLだ。結婚して2年になるが自宅の台所で料理をしたことは一度もない、鍋などの炊事用品はまだ新品のままである。王さん夫婦は朝食はパンと牛乳、昼食は会社の社員食堂で取り夕飯は外食か親の家で済ませる。掃除洗濯も一切しない。週に3回ほど掃除洗濯のために家政婦に来てもらうというのだ。王さん宅の家政婦のように掃除洗濯専門の場合、週3日の勤務で1日3時間、時給は20元である。現在中国各地で働く掃除洗濯専門の家政婦はほとんど資格を持たず、いくつかの家庭の間で掛け持ちして働いている人が多い。このように中国では家政婦の需要は日本に比べると多いようだが、一部の家庭では見栄を張るために家政婦を雇う家庭もあるようだ。

日本の場合、お金に余裕のある家庭であってもプライバシーが漏れることを警戒して他人を家に入れたがらない家庭も多く、家政婦の需要は中国に比べると大変少ない。

中国では旧正月(春節)の時期になると深刻な家政婦不足に陥る。正月前になると掃除専門の家政婦の需要が急激に増え、時給を普段の倍以上支払ってもうまく雇えない状況が続く。しかし更に深刻な問題がある。将来中国は超高齢化社会を迎えると言われている。最近では寝たきりの高齢者を抱えた家庭が増加し、すでに現在高齢者介護の人材不足が日本以上に深刻な社会問題になっている。中国には日本のような老人介護施設はまだ十分に整っていないため、高齢者介護の負担は家族に重くのしかかる。

また、中国の病院では看護婦は入院患者の血圧測定や注射だけを業務として行うが患者の排泄の世話などのことを一切しないため、入院患者の家族は入院費用とは別に「護工」(介護士)を雇って病院で病人の世話をさせることになる。このような「護工」はほとんど介護資格はなく、同時に何人か同じ入院患者の世話をすることが多い。「護工」の稼ぎはわるくないが、仕事がきついためやる人が少ない。そのため、中国では一般の家政婦に比べて高齢者や病人を介護のための働き手が少ない。そして介護資格を持っている人も少ない。有資格者は給料も高額であるため高齢者を抱える家庭では給料の安い無資格の介護士を雇うことが多い。このためトラブルも頻繁に発生する。半年の間に10回以上介護士を換える家庭も少なくないようだ。高齢者介護の問題はすでに極めて切迫しており、中国で早急に解決しなければならない問題である。 (述淵)

第18回 麻雀天国―中国

本来、麻雀とは将棋や囲碁、トランプなどと同じく、人々が余暇を利用して家族や友人との団欒を楽しむゲームの一つのはずであった。ところが今の中国では非常に多くの人々が毎日麻雀に興じており、まさに麻雀天国とよばれる状況になっている。

一般家庭での賭け麻雀 中国の一般家庭で立派な全自動麻雀卓を持つことはちっとも珍しいことではない。家族や親戚、友人が4人集まれば麻雀牌のジャラジャラという音が朝まで響く。寝食を忘れるほど麻雀に熱中する理由はそこでお金を賭けているからだ。つまり賭け麻雀に没頭しているのだ。賭博は中国でも犯罪である。10年ほど前であれば通報を受けた警察は賭博現行犯を捕まえるために出動していたのだが、近年では一般家庭で賭け麻雀をする人があまりにも多くなり、すべてを取り締まるのは不可能になってしまった。また警察官の家族も同じように賭け麻雀をしているため、よほど賭け金が多い場合以外は警察も家庭での賭け麻雀を黙認しているのが現状だ。

職場での賭け麻雀 家庭での麻雀が黙認されつつある中で、職場で勤務時間中に麻雀をするケースも増えてきた。2010年11月5日に広東省東莞の交番で4人の警官が勤務中に麻雀をして懲戒免職になるという出来事があった。また、今月シンセン市の市場監査局の所長は勤務中に公務をそっちのけて部下を集め賭け麻雀をして免職されたという。更に吉林省の教育に従事する教育者でさえ学校で賭け麻雀をして摘発されたという。一部の官僚は勤務時間に堂々と麻雀をするだけでなく公費を賭け金として使っていたという。

学生の賭け麻雀 中国の大学では学生が賭け麻雀に没頭したために、学業がおろそかになるばかりではなく犯罪の道に踏み込むというケースもある。某大学では学生が下宿で昼も夜もタバコを吸いながら賭け麻雀に明け暮れ、負けるとテーブルを叩いたり、相手に罵声を浴びせたりする。 「親御さんが苦労して貯めた学費や生活費を麻雀に費やすなんて本当にけしからん。」と目撃した老人が憤慨した。 麻雀は大学生でとどまらない。小学生や幼児までにも浸透してきた。小学生などの低学年の子供が一ヶ月の小遣いを全部負けてしまい、そのあと大切にしているキャラクターのカードまでかけて遊んでいるという。中国では3歳の幼児が「東、南、西、北、発、中」という漢字を読めることも珍しいことではない。4人麻雀で「3欠1(一人欠けた状態)」の場合に代打もできるくらい麻雀通の幼児もいる。おじいちゃんおばあちゃんが毎日しているのを見て自然に覚えてしまったのだ。

主婦の賭け麻雀 日本では主婦がパチンコに夢中になり、幼い子供を夏の駐車場で車内に置きっぱなしにして死亡させるといったショッキングな事件がほぼ毎年発生している。中国でも麻雀中毒になり家事や子供の世話をそっちのけにする主婦が少なくない。そのため、子供は朝ごはんを食べられずに学校へ行くことになり、家庭環境も乱れ、ろくに勉強ができない子が増えている。また家計用のお金まで負けてしまい、家族にばれないように高利貸しに手を出したり売春をしたりする主婦もいる。麻雀のせいで家庭崩壊になった家庭も数多くある。

麻雀を楽しむことは必ずしも悪いことではない。中国の多くの都市部ではほとんどの居住区に老人活動中心(老人クラブ)がある。老人クラブで一番人気のゲームは麻雀となっている。70、80歳代の足腰が弱くなった老人であっても、麻雀をはじめると背筋をピンと伸ばし目を輝かせて頭の回転も普段より早くなる。このように老人たちは麻雀ゲームを楽しむことによって老人同士の交流を深めることができ、痴呆症や孤独になることを防ぐこともできる。中国の麻雀事情は悪い部分が目立つ一面で、このように少しは良い部分もあるようである。

かつてアヘンで中国人はすべてを失いかけたことがあった。今の中国の麻雀事情を見ると麻雀中毒者の多さは将来、社会発展の障害にもなりかねないと感じる。 (述淵)

第19回 中国大卒者の就職事情

日本の春は卒業のシーズンだが、中国では夏が卒業シーズンだ。新学年度は9月から始まる。 2008年9月のリーマンショックと呼ばれる世界的金融危機を受けて2009年の日本の大学生の就職率が前年同期比で9年ぶりに減少した。厚生労働省と文部科学省の『平成21年度大学等卒業予定者の就職状況調査(平成22年4月1日現在)について』によると、2010年の大卒者の就職率は91.8%で前年同期を3.9ポイント下回る(過去最低は平成11年度の91.1%)とのことである。これは日本の大学生の就職率であるが、ここ数年の経済成長率が平均で10%前後の中国の大学生の就職率はどのような状況かを見てみよう。

中国の第三者教育評価機関MyCOSの「2011年中国大学生就業報告」によると、2010年度大学卒業者の卒業半年後の全国就職率は平均89.6%、給与は月額2479元だった。就職率は国際金融危機前のレベルまで回復し就職率、給与ともに上昇が続いている。2010度大卒者の卒業後半年時点での就職率は、2009年度比3ポイント、2008年度比4.1ポイント上昇した。

また、同機関によるとこの何年間か連続して就職率がワーストテンに入っている学科は法学、生物工学、コンピュータ科学と技術、英語などの学科であることが明らかになった。法学は一時的に大学を志願する高校生の憧れの科目となった。しかしあれほど人気科目であったにもかかわらず、就職時にふた開けてみると実際には「冷遇」され、二番目に就職が難しい学科となった。 ある中外合資の企業の関係者によると、その企業では投資額の大きい案件が多く、法律に関する問題がたびたび発生するため2009年に法学部の新卒者を雇用したいと考えたそうである。しかし、応募してきた新卒者たちの中には基礎的な法律知識すらまともに身につけていない者が多くみられた。何よりも実務経験がないため、いざと言う時にほとんど役に立たなかったのである。また最近の法学の新卒者は法学以外での知識のなさが目立つ。投資に関する法律の問題はたいてい「お金」と絡んでいるため、経済学や経営学の知識も重要なのである。結局この応募者たちは試用期間だけで終わり、正式の採用に至る者はなかったという。

外国語は英語科の就職率が著しく悪い背景として、近年海外に留学して帰ってきた、いわゆる「海帰派」が増えたからである。多くの「海帰派」はさまざまな分野で活躍しているため英語が話せる人材はすでに飽和状態となっている。安泰と考えられていた「海帰派」ですら就職難にぶつかり、家で待機の状態に置かれている。就職まで家で待機する彼らは「海待派」と呼ばれる。この状態では英語科の新卒生の就職場所はますますなくなるわけである。「海帰(HAI GUI)」と「海亀(HAI GUI)」の中国語の発音が同じであり、また「海待(HAI DAI)」と「海帯(HAI DAI)(昆布)」の中国語の発音が同じであることから「海帰派」と「海待派」の言葉が流行るようになった。 それに対してポルトガル語やスペイン語、フランス語、ドイツ語、日本語、ロシア語などの人材の需要が増える傾向にある。ポルトガル語を話す国はほとんどアフリカにある。近年、アフリカは中国の貿易の重要なパートナーとなったためポルトガル語もスペイン語やフランス語と同じように重要な役割を果たしている。これらの外国語を話す人材はまだ少ないため就職しやすい要因とも言われている。英語に次いで需要が少ない外国語は韓国語である。中国東北地方に生活する朝鮮族の中に中国語と韓国語の二ヶ国語が話せる人が多く存在し、また韓国企業で就職しても給料が1500元程度と安いため人気もないのである。

中国での就職率の低さのもう一つの要因は就職して3ヶ月も経たないうちに会社をやめてしまう者が多いからである。これは求人側の企業にも職を求める応募者にも問題があると考えられる。企業側はいかにして能力のある人材を低賃金で雇用するべきかを考えるが、一方、応募者は楽な仕事をしながらも高賃金をもらいたいと考える。大学を卒業してすぐに就職したものの数か月で辞めてしまい、その後は短期間に転職を繰り返しまともな就職ができず親のスネをかじっているというようないわゆるプー太郎が増えている。一人っ子政策で親が子供を甘やかす風土ができてしまい、忍耐力のない新入社員が増えたことが要因なのかも知れない。社員が簡単に会社を辞めてしまう状態では企業は人材をうまく育てることもできず、また会社のために一生を捧げたいと考える社員も少なくなっている。 (述淵)

【参考】
中国教育新聞網
網易校園

第20回 中国の戸籍制度について

4月といえば日本では、新学期や新年度が始まる季節である。故郷を離れ、新しい人生を歩む人は、たとえ最西端の与那国島からであっても最北端の宗谷岬からであっても日本全国どこへも希望どおり自由に移り住むことができる。その手続きもとても簡単で、市区町村へ必要な書類と転入出届を提出すればすぐに新しい住民票も交付してもらえる。 これは日本人にとって当たり前のことである。しかしこの常識は中国では考えられない。中国にはとても不平等な戸籍制度が存在する。1958年、《中華人民共和国戸籍登記条例》が定められ、戸籍は「城市戸口(都市戸籍)」と「農村戸口(農村戸籍)」の二つに分けられた。この規定は農民たちが自由に都市へ流入することを制限するためのものであった。

都市戸籍と農村戸籍との違いを具体的な例を挙げながら簡単に説明してみよう。 都市戸籍の張健さん(仮名)の場合 張健さんは1961年8月に天津市和平区のある一般家庭に生まれた。幼稚園の後、小中学校、高校、大学まで進学し順風満帆で何不自由ない生活を送ってきた。現在50歳代になった張さんは、学校の管理職をしながら天津市内の150平米のマンションに家族3人で暮らしている。もちろん、医療や育児、教育などの社会保障もしっかりと与えられ、定年後は年金がもらえる予定になっている。

農村戸籍の高宝(仮名)さんの場合 天津市内からわずか100キロほどしか離れていない河北省のある村で生活する高宝さんは都市戸籍の張健さんとはまったく違う人生を送っている。高宝さんも張健さんとほぼ同じ1961年2月の生まれである。 農民であった高宝さんの父親は、高宝さんが12歳の時に肺結核にかかった。しかし入院費を工面することができなかったため、父は40代で他界した。父の死で家計は困窮し教科書代や学校での雑費が払えなかったため、高さんは中学校を1年で中退せざるを得なかった。2歳年下の妹も小学校までしかいけなかった。 中国の改革開放政策を行った90年代、高さんは農業をやめ農民工として北京や天津などへ出稼ぎに出た。農村戸籍である上に中学校も卒業できなかった高さんには、都市へ来ても建築現場でレンガやコンクリートを運ぶような肉体労働しかなかった。重労働がたたり腰痛の病気を患ってしまった。医療保険に入っていないため医療費を支払うため借金も作ってしまった。高さんは現在すでに20年以上も農民工として都市で働き、都市に住んでいる。しかし在住地の暫定居住証は発行されているものの、未だに都市の市民権を得られずにいる。老後の年金ももらえない不安がある。農村戸籍の農民工である高宝さんのような事例は中国では氷山の一角にすぎない。 都市戸籍でない以上、就職、医療保険などの社会保障の条件がまったく異なる。都市戸籍は産児制限を課せられているため老後の保障として年金制度が整備されている。何より教育の面においても歴然とした差がある。都市に住んでいる農民工の子供は、両親の戸籍が農村戸籍であるため戸籍を都市戸籍に変更することができない。在住地の子供たちと同じ公立学校に入学させるには、特別な補助金や寄付金を払わなければならない。現実、ほとんどの農民工が低収入のため、高額な寄付金を払えることは不可能に近い。

現在、中国の全人口の75%が農村戸籍で、都市戸籍の中国人は25%である。中国政府は改革開放政策を実施し、経済計画から市場計画路線に切り替えて以降、このような都市と農村の戸籍の深刻な問題を認識し始めているようである。最近になって戸籍に関する不平等は緩和する方策が試みられるようになった。例えば、年金制度のない農村戸籍の者には農地の使用の権利があたえられ、更に2006年に農業税が廃止され、食糧補助金として食糧を生産している農民に補助金が出るようになったが、依然として都市戸籍と農村戸籍の貧富の差が大きい。 現在、農村戸籍の者が都市へ合法的に移住できる機会は、都市での就職、都市の大学への進学か軍隊へ入隊するしかない。さらに本当に都市戸籍を得るためには都市で高額な住宅を購入する場合に限られている。しかし都市の住宅を購入する際に都市戸籍の者に対して、貸付や分割払いが適応する優遇制度があるのに対して、農村戸籍の者にはこの優遇制度はない。 (述淵)

【参考】
百度百科
【参考】
中国教育新聞網
網易校園

第21回 中国人の連休の過ごし方

ゴールデンウィークという言葉は50年代の初めに日本人によって作られた和製英語であるが、最近は中国などの多くの国々でも使われるようになった。中国語では「黄金周(HUANGJINZHOU)」と表現するが黄金週間という意味である。 中国の「黄金周」は4月の末から5月初めの連休だけではなく、10月1日の中国の国慶節(建国記念日)前後の連休のことも「黄金周」と呼ぶ。5月と10月は春と秋で行楽シーズンでもあるため黄金という言葉が使われるようである。ちなみに中国のお正月の連休は「黄金周」とは呼ばれない。

1999年から中国政府は経済をより効果的に活性化させるために「五一黄金周」と「国慶節黄金周」という連休制度を打ち出した。しかし、この時期は日本などの国の大型連休とも重なるため、世界中から中国の観光地に人が押し寄せてしまい、観光資源と自然環境が破壊されるおそれがあるという指摘があった。これをうけて、中国政府は2008年から「五一黄金周」の7日間の連休を取り消し、5月1日を中心にした3連休制を決定した。そして、清明節の4月2日から4日までの3日間や、端午節(旧暦の5月5日)の6月22日から24日までの3日間も祭日休と定めた。国慶節は7日間の法定休日だが、今年の国慶節は9月30日から10月7日までの8日間となっている。

中国人の連休の過ごし方は、この10年間大きな変化が見られる。最近の連休の楽しみ方の中で、特徴的なものは国内外の旅行である。 国内旅行 中華人民共和国のパスポートでは、容易に日本を始めヨーロッパなどの諸国へ観光旅行に行けない時代があった。この頃は中国人の旅行は国内旅行が主流であった。中国国内には歴史、自然、商業で分けられる3つの観光スポットがある。万里の長城や故宮博物館(紫禁城)など歴史的な名所旧跡のある北京。自然の恵みを受け継ぎ神秘のベールに包まれた四川省の九寨溝、湖北省の張家界国家森林公園。そして上海、深センなどの現代化を象徴する商業都市などがそれぞれの代表的な観光スポットとなっている。これらの観光地では今も変わらず「黄金周」には観光客が殺到する。最近では観光地での鉄道の混雑、高速道路の渋滞などのさまざまな問題が発生し、家でマージャン三昧や近くの映画館で3D映画を楽しむ人々も少なくない。

海外旅行 近年日本などの先進国では中国の観光客を受け入れる条件を年々緩和し、ビザ発給を簡素化させたため、一般の中国人でも手軽に海外旅行ができるようになった。昨年3.11東日本大震災の影響で、日本を訪れる中国人観光者の数が一時的に大きく落ち込んだ。このとき中国人観光客は韓国へ詰めかけた。韓国の中央日報によると2011年の韓国を訪問した中国人観光客は日本より10万人ほど多かったとのことだ。90年代までは一般の中国人が観光目的でヨーロッパを訪れるなどということは考えられなかった。ところが今ではフランス、イギリス、スイス、イタリア、ロシア、アメリカなどを訪れる中国人観光客の数は年々増え続けている。

黄金周に世界へ飛び出し買い物をする。 買い物をする中国人が今世界的に注目されている。中国人が外国へ行く観光以外の目的は買い物である。中国国内での贅沢品購入の主戦場は北京、上海、香港などの大都市に集中しているのに対して海外での買い物の主戦場はヨーロッパだ。

世界贅沢品協会が2012年2月1日に発表したデータによると、今年の春節の連休期間に中国人が海外で購入した贅沢品は累計72億ドルに達し、前年同期より28%増え、史上最高を記録したということだ。欧米での主な消費品目は高級時計、皮革製品、化粧品、香水などである。中でも高級時計の占める割合が特に高いという。たとえばパリでは次のような風景がよく目撃される。ルーブル美術館を見学しようとする人々の行列は世界中の様々な人種で構成されていることに対して、ルイヴィトンやエルメスなどの高級ブランド店での行列はほとんどが中国人で構成されている。

異文化に関心を示す中国人観光客の姿勢 買い物ばかりが注目されていた中国人観光客であったが、最近少し変化も見られるようになった。これまで日本を訪れる中国人観光客の目当ては家電製品、化粧品、高級ブランド品などの買い物が中心であると考えられていた。しかし今年は日本の桜の季節にちなんで東京の上野公園などの花見のスポットが大勢の中国人観光客でにぎわっていた。北京からきた周さんは「日本人のお花見の習慣は古代中国から伝わったと聞きましたが、中国ではこのお花見の習慣は残っていません。桜の花というのは1週間ほどであっという間に散ってしまうのに、なぜ日本人はこんなに桜のお花見を好むのか研究してみたいです。

またお花見をする日本人のマナーの良さをビデオに納め、北京に帰ったらみんなに見せたいです。」と興奮気味で話してくれた。 中国人が中国のゴールデンウィークを利用して国内外を旅行することによって、中国だけでなく世界、とりわけ隣国の日本や韓国にも当分の間は大きな経済効果をもたらすことになるだろう。 (述淵)

【参考】
中国国務院による2012年の祝祭日に関する通知

第22回 無理して購入したはずのマイカーだったが・・・

中国大連市開発区在住の劉麗さん(仮名)の夢はマイカーで一人息子を幼稚園へ送り迎えしたり、夫とドライブを楽しんだりすることだった。 まわりの多くの友人や親戚が高級車を所有する中、劉さんも何とかしてマイカーを手に入れたかった。夫に内緒で教習所へ通い、ひそかに運転免許証を取得した。実は劉さんは4年前に開発区で50万元(約650万円)のマンションを20年のローンで購入したばかりだった。劉さんの家計は特別余裕があるわけではなく、そのマンションの頭金10万元(130万円)も夫の実家の援助によるものであった。 「まだ長期のローンが残っている状態なのに、当分車を買うのは難しいだろう。」と劉さんは考えていた。

劉さんは夫を誘って休みの日にカーショップやモーターショーに出向き、お気に入りの車を見つけては試乗してみた。目新しい装備が整った最新の車の運転はとても楽しかった。劉さんは試乗が終わっても後ろ髪を引かれ、なかなか車から降りようとしなかった。妻のこの様子を見ていた劉さんの夫は、劉さんの夢を実現させてあげようと、去年9月に17万元で「一汽馬自達」(中国マツダ)の車を購入した。車の購入資金のうち10万元は親戚から借り集め、残りはゼロ金利の12ヶ月ローンを組んだ。 劉さんは会社の同僚に、借金して購入したとは言わず一括現金払いで購入したと見栄を張った。

やっとの思いで手に入れた念願のマイカーであったが、しかしこのあと続々と問題が出てくる。 劉さん一家のマイカーでの初めてのお出かけは国慶節の連休を使って大連市から約470キロ離れた朝陽市の実家へのドライブだった。普段であれば、高速道路での走行は5時間くらいで着く距離なのに、その日は連休の渋滞や交通事故のため、12時間以上もかかってしまった。 長時間のドライブで3歳の子供は、車内でいらいらして落ち着かない様子で、早く降りたいと泣いてばかりいたと言うのだ。

劉さんは慣れない長距離運転の大変さがこの一回で身にしみたようであった。しかし短距離の子供の幼稚園への送り迎えも想像以上にうまくいかない。 朝8時までに車で子供を幼稚園に送ってそのまま会社へ出勤するのだが、これまで自転車で10分程度の距離が車で3、40分もかかってしまうことがしばしばあった。また、信号無視の運転手や交通ルールを守ろうとしない歩行者が多いため、他の車と接触してしまったこともあった。これまで人身事故には至らなかったものの何度も冷や汗をかいたという。

劉さんは車を購入する前に、年々激しさを増す交通渋滞のことを考えたことはあったが、駐車場のことに関しては真剣に考えたことはなかった。 劉さんの住んでいる小区(住宅街)には住民のための地下駐車場がある。しかし爆発的に増加する自家用車の数には追い付かない状態だ。小区の住民はそれぞれ勝手にマンションとマンション間の道路の脇に車を停めるわけだ。それも早い者勝ちで遅く帰った場合は自宅よりかなり遠いところに車を停めるしかほかない。時々、新車がいたずらされ、傷つけられることもあるという。

更に、劉さんは車を購入した当時1リットルのガソリン価格は7元(約100円)だったが、今は8元になっている。家と車のローンに加え、ガソリン代と車の維持費などが家計に暗い陰を落とす。 マイカーを手に入れた劉さんの今の心境はというと「無理して車なんか買わなくて良かったのかな。」と後悔のひとことだった。

2001年9月1日から中国の世界貿易機関(WTO)への加盟に伴い中国の自動車は増え続けその増加の勢いは衰える気配が見られない。新華ネットの2012年1月12日報道によると、中国の自動車保有台数は1億600万台で、運転免許取得者数は2億3600万人に達したというのだ。ちなみに日本の自動車保有台数は約8000万台(平成24年1月末現在)である。

世界の自動車メーカーは、経済が急成長している中国で、あの手この手を使って一台でも多く自動車を販売しようと躍起になっている。一方、中国での自動車による大気汚染や交通渋滞、交通事故の多発、エネルギー不足の問題は一段と深刻化している。これらの問題の解決は遅々として進まず、自動車保有台数の大躍進とは反比例するかたちとなっている。本来なら自動車は人々の生活に便利さをもたらしてくれるはずのものだ。しかしもし中国の都市の道路が車で埋まってしまったなら町は単なる駐車場になってしまうのではないだろうか。 (述淵)

【参考】
自動車保有台数1億超える、運転免許取得者2.36億人―中国

第23回 中国語学習の方法

21世紀は中国語の時代だといわれている。世界の人口約70億人のうち、13億人が中国人である。つまり人類の約5人に1人が中国人という計算になる。中国は人口が多いだけでなく、最近急激に経済が発展してきた。これから世界の経済を牽引するのは中国であると言っても過言ではないのだ。こういった情勢からも中国語の必要性が高くなってきたわけだ。 中国語時代の到来を先読みして日本の私立高校などでは必須科目として中国語を取り入れるところが増えている。 中国語に関わらず、外国語の習得は難しいと考える日本人は多いようである。英語学習で苦しんだ経験からである。今回は日本人にとって中国語が他の外国語よりはるかに習得しやすい言葉であることを説明したい。

・日中間の漢字の共有 中国語は漢字で表記し、漢字を表意文字として使っている。日本語でも漢字を表意文字として使用している。一説によると漢字は紀元前3世紀ごろ日本に伝来してきたという。漢字は表意文字であるがゆえに一文字一文字がかなり複雑な形をしている。戦後国民の識字率を高めるため日中それぞれの国で漢字を簡略化する改訂がすすめられた。日本では1946年に新字体を定め、中国では1960年代に伝統的な漢字を大胆に簡略化して現在中国大陸で使われている「簡体字」という字体を定めた。 現在の中国の漢字と日本の漢字とは字体が多少違っているものの意味はほぼ同じである。日本人が中国語を学習するうえにおいて中国語の漢字の意味を改めて記憶する必要がないという利点がある。漢字を使用しない他の国の人にくらべると断然に有利である。

・3つの「キ」 外国語の習得には3つの「キ」が必要である。3つの「キ」とは「動機」、「やる気」、「暗記」のことである。 まず、「動機」について実例を紹介しよう。「動機」は人によってそれぞれあるが、2年ほど前から中国語の勉強を始めた高木さんの例を挙げてみよう。高木さんは中国の映画が大好きだ。しかし台詞を日本語に吹き替えした中国映画はあまり好まない。高木さんいわく、同じ映画でも原語のものと日本語に吹き替えてしまったものとでは受ける印象はまるで違う。吹き替え映画の登場人物は原語の登場人物とは人格まで違うように感じるという。「中国語映画を字幕なしで見て意味が分かるようになりたい。」ということから高木さんの中国語学習の「動機」となった。 次は「やる気」について。動機があれば、やる気は自然に出てくる。高木さんは寝食を忘れて中国語の勉強に没頭した。中国語には日本語にはない特有の発音がたくさんある。特に日本人にとって難関だと考えられているのが「舌巻音」(ZHI 、CHI、SHI)の発音である。高木さんはこれを1ヶ月以上努力して、やがて中国人のようにうまく発音できるようになったという。発音が上手になった高木さんは、中国語の上達により、苦労が喜びに変わることで「やる気」が更に増していくというのだ。 最後に「暗記」について。中国語に限らず外国語を勉強の要は単語や文法を地道に暗記していくことだ。いくら良い先生に教わったとしても先生が生徒の代わりに単語や文法を覚えることはできない。習得者自身によって覚えるしかほかない。高木さんの場合は効率が良い暗記の方法としてカテゴリ連想法が一番効果的だという。例えば、「リンゴ」という中国語の単語を覚える時はバナナ、梨、桃など他の果物をも一緒に覚える。また「手」という単語を覚える時に他の人体の部位に関する単語を併せて覚えた方が忘れにくく効果的だ。好奇心から語彙を増やすのも方法の一つである

初期段階に一気にたくさん覚えようとする人も多いようである。しかしあれもこれもすべて覚えてしまうのは無理なことである。途中で嫌気が差して挫折してしまうことにもなりかねない。たとえば中国語学習の初心者は発音記号ともいえるピンインを覚える必要がある。しかし「光」という漢字のピンイン(guang1)を覚える場合には声調は第二声ということとつづりのguangだけ覚えれば十分である。詳細説明に書かれている「g」は「声母」で、「u」は「介音」、「a」は主母音であることなどの説明文まで覚える必要はない。というわけで、効率よく暗記してある程度覚えたところで、改めてこれまで暗記したことを意味や規則で整理すればやがて自然に理解したうえに記憶をすることができるようになるのである。このようなことを何回も繰り返しているうちにやがて自分のものになる。「温故知新」とこういうことだと思う。

イメージトレーニング法 イメージトレーニングという言葉はスポーツにおける練習方法だけではなく、語学の勉強にもとても役立つものである。中国語で表現したいことを文章から発音まで事前に準備し台詞を言うように感情を入れて身振り手振りも加えて練習する方法である。またせっかくイメージトレーニングしているのに、披露する場がないのも無意味である。自ら積極的に中国語を話せるチャンスを作る必要がある。誰か中国人の友達を作るのが一番の近道かもしれない。最近の中国国内で、よく知られている日本人である加藤嘉一さんが中国語を身に付けた方法も中国人の友達を作って世間話をすることだったそうである。

このような方法で中国語を2年間勉強してきた高木さんは、今では中国人と間違えられるほど流暢な中国語を話すことができる。もちろん、中国語映画も字幕なしでもほとんど理解できるという。

(述淵)

第24回 日本人と中国人の親孝行意識

最近、日本の売れっ子タレントの母親が生活保護を受けていた問題は、国会でも取上げられるほど世の中の関心を集めた。ここで日本の行政のチェックが疎かになっているとか、そのタレントのモラルが問題などを批判するつもりはまったくない。今回は日本人と中国人の親孝行意識について比較してみたいと思う。

日本人の配偶者を持つ中国人が集まると「日本では親孝行の意識が薄い。」「親戚同士の付き合いはあまりしない。」といった話題が多く聞かれる。 10年ほど前に上海から日本人の男性と結婚するために来日した40歳代女性の宋さんは、最近60歳代の義理のお母さんを病気で失った。葬儀場で出会ったご主人の親戚(従姉たち)とはほとんど初対面であった。義理のお母さんが1ヶ月入院していた時も二人の義理の妹は仕事が忙しいという理由であまり見舞いに来なかった。ご主人も含め2人の妹は母親が亡くなったというのにそれほど悲しそうな様子も伺えなかったという。葬儀後の食事の席では豪快にお酒を飲んでいた。また、ご主人の従姉の中の何人かは宋さんの家の近くに住んでいるにもかかわらず、付き合いもほとんどないと話していた。

宋さんの例は極端すぎるかもしれないが、確かに中国と比べれば、日本人の親孝行の意識は低いようだ。日本人はよく「絆」という言葉を使うが、日ごろから親孝行をテーマにする映画やドラマはあまりみあたらない。たとえばある著名人が親不孝とも取れる行いをしていたとしてもプライバシー保護の理由で世論から非難されることはない。

一方、儒教発祥地の中国ではこどもの頃から孔子と孟子の孝道の教育を受けて育てられる。「敬親、奉養、侍疾、立身、諫諍、善終」の孝道文化の中でも特に「敬親」と「奉養」の精神は社会全体に根強く受け継がれている。「孝」という漢字は「老」という漢字から「ヒ」を省き「子」と書き加えた会意文字である。中国人の中に根付く年老いた親を子が支えるという「善事父母」の精神は漢字の中にも伝えられている。 時代とともに、中国人の親孝行意識が変わりつつあると言われているが、今のところ基本な部分は変わっていない。一人っ子政策が実施されるまでに生まれた30歳代以上の中国人は親孝行の意識が特に高い。

天津に住む50歳代の楊さんは5人兄弟の末っ子で今年83歳になる高齢の母を持つ。楊さんの父は30年前に他界しその後は母が女手ひとつで5人兄弟を育て、末っ子の楊さんを大学まで行かせてくれたという。楊さんの母親は毎日夜更かしをしながら洋服のボタンをつける内職をして生計をたてていたそうである。北京に住むお兄さんを除き、他の兄弟は皆天津市内に住んでいる。兄弟たちは特別な事情がなければ週に1度は必ず母親の家に集まり、一緒に食事をするというのだ。5人の孫も結婚しひ孫も生まれた。みんなが集まると50平米の家は狭く感じるため10年ほど前に兄弟5人がお金を出し合って母親に70万元で100平米の新しいマンションを購入したという。一見すると楊さんの母親は一人暮らしのようだが母親一人の日は一日もない。必ず誰か一緒にいるのだ。母親は子供たちの愛情を受けて幸せに暮らしているためとても元気に過ごしている。

楊さんとその兄弟は親孝行なだけではなく、兄弟や親せきとの仲もとても良いのだという。

楊さんは母親の苦労を考えるといくら恩返ししても足りないくらいだと考えている。

中国では親孝行は何よりの善事で美徳である。自分だけいい暮らしをしながら母親に生活保護を受けさせるような状態は子供として立場がなく、世間にメンツが立たない。 中国の「春運」(旧正月に里帰りをする時の日本では想像を絶するほど交通量が多くなる現象)のことについて、日本人はきっと不思議に思うに違いない。なぜ、死ぬ思いをしてまで故郷の両親の所へ帰りたがるのか?それはやはり中国人の親孝行思想が原動力になっているからだ。

このように、親孝行が美徳である中国社会も、中国人がみな楊さん一家のような親孝行の人ばかりだというわけではない。嫁姑問題も日本と変わらない。 また最近は中国の親孝行の精神も少しずつ変わりつつある。30歳以下の若い世代はほとんど一人子で親や祖父母に溺愛されて育てられた。中国でもまもなく高齢化社会を迎えるのだが若い世代の家庭で夫婦両方の親(4人)の面倒を見ることはもはや不可能だ。高齢者は従来の子供の親孝行に依存する意識も変えなければならない。

長年日本に暮らしている中国人の中には、「日本人の親子親戚関係はあっさりしているので面倒なことも少なく互いにストレスがなく居心地がよい。」との見方をしている人もだんだん増えてきた。(述淵)

「敬親」:親を尊敬し愛すること
「奉養」:物質的に親をサポートすること
「侍疾」:病気になった親を介護すること
「立身」:出世し親を喜ばせること
「諫諍」:親の不正を遠慮せず諫めること
「善終」:親の最期を見届け立派な葬儀を行う

第25回 中国の医療事情

今年5月に、中国の安徽、天津、東方、浙江の衛星テレビで「心術」と題した医療問題をテーマにした36話のドラマが放映された。「心術」は人命を救うべき病院が金儲けの手段となりつつある中国医療の現状を都市部にある大きな病院の舞台に老百姓(庶民)の目線で生々しく描き大反響を呼んだドラマである。
「心術」に描かれたことはまさに中国の医療事情の縮図である。
上海在住の張春芳さん(仮名)は78歳の母親が2年前に膵臓がんと診断され、上海市内のある総合病院で治療を受け、手術をすることとなった。張さんと他の2人の兄弟は母親の手術のために合わせて5万元(約63万円)のお金を用意した。「医療保険に加入しているから5万元あれば充分だろう」と考えたのだが、実際にその倍以上の12万元(約150万円)もかかってしまった。そしてその内訳に驚いた。膵臓摘出手術代は3万5千元ほどだったが、手術するための保証金として5万元を先払いしなければならなかった。手術する前に執刀医へだけでなく他の関係者にも多額の「紅包(謝礼)」を渡さなければならない。そうしなければ後回しにされたり、いい加減な処置をされたりすることになってしまう。まさにその「紅包」は命綱となるのだ。医者から様々な精密検査が必要だと説明された際も、張さん家族は母親の命がかかっていることを考え「はい、はいお願いします」としか言えなかった。検査費用だけでほぼ2万元かかってしまった。必要な検査は一部だけで、すべては必要がなかったことが後で判明した。また、本来なら医者は「対症下薬(病状に応じて投薬)」するべきであるが、近ごろの中国の医者は患者にとって必要ないと解っている薬をも売り込んで製薬会社から手数料を受け取とうとするケースも多い。 ではなぜ、検査費用がそれほど高額なのだろうか。外国製の医療機器で検査をする場合は保険の対象外とされることが多いという。病院は支払う能力のありそうな患者を見つけて必要でない検査を勧めて金儲けするという。また、張さんの母親は手術後の胆汁を排出するために使う胆管拡張器について、中国製か外国製のいずれかを選択するよう病院側に言われた。中国製のものと外国製とにどれほどの性能の差があるか解らないまま張さんたちは母親のためを思って高い外国製のものを使ってほしいと答えたという。薬の場合も高額な外国製品を勧められる。このように病院は家族の親孝行の気持ちに付けこんで必要でない医療費を払わせるのだ。
結局張さんの母親は手術を受けた2週間後に亡くなった。危篤状態に陥り、手の施しようがないと分かった時も高級栄養剤の点滴を強要された。張さんが医者に問いただしたところ、医者の答えは意外と正直だった。「今月の薬のノルマが足りないので、ご協力願います」。
中国では同じ病人であっても権力者や金持ちであればコネを効かせて優先的に診療を受け患者らしい待遇を得ることができる。 張さんのように都会に住み、それ程裕福でもない家庭の場合でも兄弟3人で母親の治療代を分担すればなんとかなる。しかし、農村部の病人は遥々地方から都会の大病院をめざしてやって来てもコネも金もないため何日も待たされる。診察を待つ間の宿泊代などは農民にとって大きな負担となる。やっとの思いで診てもらえることになったとしても必要以上の精密検査を強要され、莫大な検査費用を払わされる羽目になる。「もう手遅れだ、この病院では治療できないから他の病院に行きなさい」など言われることも多いという。あまりの絶望感から医師を憎み殺人事件が発生した例がある。
「公費医療」がシンボルとされた社会主義中国の医療保険制度は、市場経済に転換し始める1990年頃から徐々に改革されはじめた。2007年には「都市住民基本医療保険」と「新型農民合作医療」からなる「全民医療保障」と呼ばれる制度が実施された。しかしこの「全民医療保障」は日本の国民健康保険とは異なり、無職の農村戸籍者は「新型農民合作医療」に加入していても、県を超えての病院治療は受けられないケースが多い。また、重病になった場合、精密検査や高額な薬は保険対象外になることが多く、その治療費負担は一般の人々の収入とはかけ離れた金額となる。人々には病気の苦痛に加え借金地獄が待っているのが現状である。
中国の医療に携わる者のモラルが低下した原因は医療社会に蔓延する「拝金主義」である。また、過酷な労働条件の割に医師の社会的な地位と収入が低いのもモラル低下の主因となっている。しかし、「心術」のドラマに描かれたように医療に従事している者がすべて悪い人というわけではない。医徳が高く責任感も強い、心の優しい医者や看護師は数多く存在する。お金のない難病の患者のために寄付を呼びかけるなど、医者による感動的な実話も数多くある。
ドラマ「心術」を通じて中国の医療事情が改善されることを願う。

第26回 オリンピック後の北京は今

間もなくロンドンオリンピックが始まる。中国で初めて開催された北京オリンピックから早くも4年が経った。北京オリンピックでは競技はもちろんのこと開会式のインパクトも強かった。世界的に有名な映画監督である張芸謀が演出した開会式はその壮麗さと豪華さで世界中の人々に、オリンピックにかける中国人の熱意と気迫を宣言するものであった。その開会式の光景は今でも人々の頭の中に鮮明に焼き付いている。2008人の演者が打楽器をたたきながら孔子の論語「有朋自遠方來不亦樂乎(朋有り遠方より来る。また楽しからずや)」を唱え、世界各国からの来賓を歓迎した。それに続いて中国古代の発明である紙や活版印刷、羅針盤を再現した。最後にオリンピックの精神である「平和」をイメージする「和」という漢字を活字群で表現した。これらのシーンはまるで昨日の出来事のように想い起こすことができる。
4年の歳月が流れた今、この開会式が行われた「鳥の巣」などの北京オリンピックの競技施設はどうなっているのだろうか?
北京国家体育場「鳥の巣」
北京オリンピックのメインスタジアムとして知られる北京国家体育場、通称「鳥の巣」はオリンピックの後、スポーツ競技に使用しない日は一般開放され北京観光の人気スポットの一つとなっている。入場券は50元(約630円)である。スポーツ競技以外にも有名歌手のコンサート会場としてなどさまざまなイベントに活用されている。今でも鳥の巣の夜景は北京の夜空に美しく輝いている。
北京国家水泳センター「水立方」
北京オリンピックで水泳競技が行われた会場「水立方」はその後、水泳トレーニングやレジャー施設として利用できるように改装された。各種の国内外水泳競技に使用する一方、普段は一般開放されている。見学入場券は30元(約380円)、水泳券は50元、様々な遊戯施設を備えたウオーターパークの入場券は200元(2600円)である。
北京オリンピックのシンボルである「鳥の巣」と「水立方」は見た目のインパクトも強かったため、現在も中国国内や海外からの観光客が連日訪れている。特に中国各地から初めて北京を訪れる観光客たちはオリンピックの聖地を一目見ようとつめかけ、故宮博物館や万里の長城より人気の高い観光地となっている。
北京市民の公共マナーはその後どうなったのか。
これまで中国人の公共マナーの悪さは他の先進各国の人々のあいだでは有名な話であった。オリンピック開催当時、中国では国を挙げて人々のマナーを改善しようといろいろな取り組みを行った。その結果、世界各国から詰めかけた観光客や報道陣の前で多くの北京市民は秩序正しい公共マナーを心掛けた。オリンピック開催地の市民としての自負心がそのようにさせたのかも知れない。しかし、最近北京を観光してきた人の話では、緊張感も和らいだせいか少し逆戻りしているようである。昔のように百貨店の中で痰を吐く人、タバコのポイ捨て、信号無視やバスなどの乗り物の割り込み乗車などは以前のように多く見られたという。 中国は経済が発展しGDP世界2位の経済大国と呼ばれるようになったものの、人々の公共マナーにおいては先進国とは程遠い。強制されるのではなく市民の自発的なマナー向上はもう少し時を経なければならないのかも知れない。
【参考】
国家体育場(鳥の巣)
北京国家水泳センター(水立方)

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